カオサンの喧噪なんて、日本と同じじゃないですか

朝6時起床。こんな早く起きたのはいつ以来だろう。準備をしながら数々のカオサンでの出来事に思いを馳せる。
このベッド以外何もない部屋も最後。相方と、よし、と軽く頷き、久々に重い荷物を背負って立ち上がる。宿のあんちゃんと固く握手をして宿を出る。
朝のカオサンは夜とはまったく違う雰囲気。だーれもいない。思えば10日間でこの街にも数多くの知り合いができた。いつも話すイスラエル料理屋の姉ちゃんたち、屋台のかわいい女の子、オレンジジュース売りのおばちゃんたち、カエル親子、行きつけのクラブやライブハウスの店員たちなどなど。
みんな超いいやつらだった。タイ人最高だわ。思えば昨日のうちに別れを一言いっておけばよかったななんて思いながらカオサンを歩く。
サンキュー、カオサン。世界で一番好きな街。どっかの映画で聞いた台詞。言うなら今が一番相応しい。ぼくはひとり心の中でつぶやく。
「I'll be back soon」


カンボジアへ向かうちっちゃなワゴンには日本人ばっかが10人くらい乗り込む。みんなでまったりと雑談しながら、ワゴンはカオサンを少しずつ離れていく。カンボジア日本語学校設立の準備をしているという鬼さんを中心に話は盛り上がる。鬼さん、名字が「鬼」ですよ。ちなみに日本でこの家系だけで鬼さんが13代目らしい。節分の時とか大変そう。
そして国境を越え、ついにカンボジアへ入国。バスに乗り換え、バスは今まで悪路だと思っていた道に申し訳なくなるくらい悪路を走行。
そこで日本人のバックパッカーの男にタイはどうでしたかと聞かれたので、ずっとカオサンにいましたと答える。カオサンが最高に好きだと言うと、男はカオサンが嫌いだと答える。彼はアユタヤとかパタヤとかに観光に行っていたという。
カオサンなんてどこがいいんですか?と聞かれ、あの喧噪が最高なんじゃないですか、と言うと、彼は非常に驚く言葉を返してきた。
「カオサンの喧噪なんて、日本と同じじゃないですか。」
ぼくは何も言えなくなる。あまりにショックで。言葉を失う。
同じ日本人で、同じ街を旅し、そして、ここまで旅観が違う人が存在するのか、ということに。
カオサンは世界であそこだけの街。ぼくのなかでそれは絶対。日本の中ではこんな空気は絶対に存在し得ない。
旅人が半分近くを占め、それに現地人が絡んでくる、そうすることで初めて形成されるのがあの空気。
あのカオサンの空気が苦手なんて人はいくらでもいると思うが、ここまで考えが違う人に僕は正直、苦手意識以外抱けない。そのことに自分でもショックを受ける。大学でも異文化コミュニケーションを専攻し、考えの違う人と話し合い受け入れることを学ぼうとしているのに、自分でもそれについては自信がある方だと思っていたのに、崩れる。そんでもう寝る。やばい揺れの中寝る。
途中休憩所で目を覚まし、降りてカンボジアの子供と遊ぶ。カンボジア人も超かわいい!!みんな愛嬌があって元気で楽しい、楽しい。
バスが契約しているシェムリアップの宿に着き、なかなか良かったのでそのままチェックイン。宿のオーナーのLisらと仲良くなり、明日のアンコールワットサンライズのバイクタクシーを予約する。
そのあと宿の食堂で一緒のバスで来た日本人たちとパーティー。女パッカー二人組と、ぼくらとカップルのふたり。
カップルのふたりは、なんと新婚旅行でバックパッカーしてるらしい。シンガ、マレーシア、タイ、カンボジアベトナムラオス、タイと回るという。もうはっきり言って超うらやましい。すごく素敵なふたり。
彼はこう言った。ちょっと照れながら。
「偶然じゃなくて運命だよね。」
うんうん!人の出会いってきっとそう。


鉄の味のするシャワーをあびて、明日に備える。4時半起き。
アンコール・ワットはすぐそこだ。