She Again

たとえば、ある人がここに存在していたという徴は、いくつものところに残っているし、そのひとつひとつが、「僕がここにいた」と誰かに記憶しておいてもらえた跡ならば、やはりこれほど幸せなことは無いのだろう。


語る、語られる。


そうされることでこのように気持ちよく街を歩けるのならば、僕は語ることを決して辞めるつもりは無い。それはジョーイが僕のことを「I always remember you 」と言ってくれることはもちろんそうであるし、そのことを言わずとも、今朝、ちょっと早起きしたまだ人気もまばらなカオサンで起きた出来事もそうなのだろう。


昨年の夏、毎日のように通りかかって「おはよ」「いってきます」「ただいま」という挨拶だけの関係を続けたイスラエル料理屋の女性たちが、1年ぶりに帰ってきた僕のことを覚えていて、「帰ってきたのね!」と言ってくれたことに、僕はひどく感動してしまったのだ。
彼女たちは、まるであの夏の日の続きのように、何も変わらず「カワイイ」とひどく挑戦的なニックネームで僕を呼びかけ、僕はそれに対して、ありがとう、と言って通り過ぎるのだ。そこには時間の流れだとか、何も関係ない。


僕は確かにカオサンにいたのだ。
そして、またここに帰ってきたのだ。
ただ、それだけのことだ。


通り過ぎるだけだったその店ではじめてサンドイッチを食べてみる。シュワルマ。懐かしい、中東旅してるときの味だ。


ジョーイと、KAEと長い間メッセを続ける。ジョーイから今日会える、とメッセをもらう。あまりにも嬉しくて、そんな自分の気持ちに驚く。
タクシーに乗り込みKAEの職場に向かう。そのまま地下鉄で、Central Ladpowというデパートに向かい、30分ほどぶらぶら。そこにジョーイがあらわれる。


一瞬、まるで時が止まる。そこにジョーイがいるのだ。1年間も会うことのできなかった彼女は、前よりもはるかに美しくなっていて驚く。ジョーイ久しぶりだね、と。それしか言えない。言おうと考えていたことは、全部頭のどこかに消えてしまった。ただこうしてまた会えたことがこんなにも嬉しい。

そのままジョーイの案内でサバーイな雰囲気のダイニングバーへ。ジョーイとKAEがめちゃくちゃいっぱい頼み、テーブルは一瞬で埋め尽くされる。そこにジョーイの友達というフィアという男が現れる。

フィアが現れて、一瞬まじで焦る。こいつがまた曲者と言うか、とにかくイケメンで面白くていかにもモテそうな奴。ま、まさか、ジョーイに「私の彼氏」とでも紹介されるのではあるまいか、と。てゆうか結婚しててもおかしくない年齢だしな。本気でどきどきしながら接する。

てか他の男の登場でこんなけ動揺するなんて、、完全に恋しちゃってるじゃん俺。でも様子見てる限り、ほんとにただの友達のようでまじ安心する。そうなるとフィアがめちゃくちゃいい奴で大好きになってしまう。
ビールの飲めないKAEを除いた3人で、でかいビール樽みたいな10リットル入りのやつを空ける。まじで泥酔直前。てかジョーイ、去年はぜんぜん飲めなかったよね、と聞くと、ジョッキ片手に首を横に振る。あれれ?
フィアは僕にコホリって知ってるか、という。僕が知らない、と答えると、第二次世界大戦中に、タイ人女性に恋をした日本人のことだよ、と説明してくれる。じゃあ同じだ、というと一同爆笑。あはは、やばい楽しすぎる。

そのときビーからジョーイに電話がかかってくる。いま僕も一緒にいる、ということを伝えるとビーはひどく驚き、今日私たちが出会ったクラブにいくから、大地も来て、と誘われる。わ、それ嬉しい。が、ジョーイには焼餅やかれる。ごめん、かわいすぎ。

最後に別れる前、ジョーイをきつく抱きしめる。ほんとにまたこうして会えてよかった。二度と会えなくてもおかしくなかった人が、いま僕の腕の中にいる。
タクシーの中、ずっと彼女のことを考えながら。
いったん宿に戻り、同じ時期に偶然旅する、と言っていた友人が来たのを確認し、クラブへ向かう。一周回ると、懐かしい顔。ビーだ!ハグをし再開を喜ぶ。ビーの友達の「イクイクイク」が口癖のエロタイ人、レッグとも仲良くなる。そのまま場所を移して飲み続ける。カオサンの夜は終わらない。