どうして旅をしているの?

garuboru2006-09-15

朝5時。軽く寝過ごす。早速バイタクの後ろに二ケツで乗り込む。いや、てゆうかノンヘルなんですけど。最高時速100kmとかなんですけど。


ああ、ついに来た。ぼくが長年憧れていた場所に。
アンコール・ワット
ぼくはいま、アンコールを目の前にして立っている。空には少しずつ陽が昇ろうとしている。


だが、何だ。
何だ、この感じは。
特に、何も思わない。自分で自分の気持ちが高ぶらないことに焦る。なぜ僕はいまここで、ああこんなもんか、とか思ってしまっている。信じられない。凄い、と、思おうとしている自分がいるのは何故だ。
エジプトや中東を旅していたときに見た遺跡は、足を踏み込むたびに何度も、何度も言葉を失った。涙が自然と流れてきたときもあった。
期待が大きすぎたか。マチュピチュとアンコールは見たら死んじゃうんじゃないかなってくらい期待していた。
人が多すぎるのか。それもあるかもしれない。観光客があまりに多い。耳を澄ますと、聞こえてくるのは静寂でも、過去からの声でもない。日本語だ。
僕は焦る気持ちを抑えアンコールに登頂する。
「凄いな。…けどクラック(シリアのクラック・デ・シュバリエ)のが1億倍くらい凄いな。」
相方に冗談めかしてこんなことを言う。相方もどうやら同じ気持ち。
アンコールを降りる。サンライズが終わったアンコールはツアー客が全員帰り、ぼくはそこを独り占めする。はじめて、ちょっと感慨深くなる。遺跡にまで独占欲ですか。
周辺の遺跡も回る。アンコール・トム、バイヨン、トマノン、タケウ、タプロム。まあ、それなり。
タケウであった女パッカーの「みんな同じですよね」って言葉に3人で激しく同意する。自分だけじゃないってことはひどく安心する。こうゆうところはすごく日本人らしい。この大勢のツアー客はどう思っているんだろう。微妙だって思ってるのに半強制的にツアーし続けなきゃならない人は大変だろうな。
僕らは12時くらいには宿に帰り、近くのマーケットへ。適当にブラブラして、近くの卓球場へ。カンボジア人の女性と卓球をひたすらする。超楽しい。スポーツは言葉を超える。
帰ってきて、サンセットの約束があったが、もうアンコールはいいやという結論に達し、ひたすら寝る。停電でファンも止まっている中寝る。

起きるとまだ停電が続いている。どうやらいったん停電になると1日は復旧しないよう。部屋にいても暗すぎて何もできないのでロビーに降りる。宿のスタッフや子供たちがトランプをしているのでそれに参加。ジャパニのトランプを教えてとせがまれたので、ばばぬきを教えてあげようとするが、ジョーカーがない。ジョーカーはと聞いても知らないと言う。トランプくらいは世界共通だと思っていたが、まさかジョーカーがないとは。そこでじじぬきに切り替える。
適当に遊んだ後、屋外の食堂でOlyaという女性と話す。21歳、同い年。昼間は小学校の先生をしており、夜はこの宿を助けているらしい。
明かりはろうそく1本だけ。ろうそくが彼女の顔を美しく照らす。
先生の給料は1月わずか30$。僕は彼女の前で2$の食事をする。何だ、この不平等は。だってどう計算しても足りないじゃないか。何で彼女はこんなに明るく、こんなに優しい。どうして僕らをうらまない。
世界が不平等だなんてとっくにわかっている。日本からの航空券の値段を聞かれたとき、僕はいつも嘘をつく。本当の値段を言えたことがない。彼女が何年働いても、貯まるわずかなお金では、きっと一生来れないことはわかっているから。
Olyaは、世界の他の国について目を輝かせて聞く。そして問う。
「どうして旅をしているの?」
僕は英語で説明できないふりをする。今まで一度もこの質問に答えられたことはない。
旅って何だ。
世界を知りたいって何だ。
世界を知って、じゃあ僕に一体何ができるってんだ。