<映画>

a)ミレニアム・マンボ(侯孝賢)★★★★
b)風櫃の少年(侯孝賢)★★
c)サンクチュアリ瀬々敬久)★★★★

c)世の中を大きく分けると男がいて女がいる。『サンクチュアリ』のチラシにコメントしている相田冬二さんの言葉を借りれば、この映画中において男=支配する者、女=支配される者である。これは実際の性別と何ら関連性を持たず、映画中においては例え女の登場人物であろうと、支配する者となるし、時には男が支配される者となる場合もある。前者の例としては、黒沢あすか演ずるアキは多くの場面において男的であるし、後者では光石研がアキに殴られ続けるところに象徴されるだろう。
ただしこの性的な立場は簡単に崩壊しうる可能性を秘め、一瞬前では支配する側に立っていた人間が、わずかの瞬間で支配される側に陥るという危うさが常に存在する。それは、一見するとどう見てもアキに支配されているはずの山下葉子の行動に注視してみれば明らかである。例えば彼女が紙に鳥を描くシーン。このシーンは映画中に何度も描かれるのだが、鳥と人間の関係性を想像してみたい。鳥は人間によって鳥籠に閉じこめられる存在、すなわち支配される者の象徴であり、人間が支配する者の象徴であるはずである。そしてこの場面では、鳥をフレームに入れようとする(=鳥籠の中に閉じこめようとする)のはアキではなく裕子である。ここでは立場の逆転が確かに生じている。アキが「すべてを壊したいのよ」と言ったように、鳥籠を壊し自由となろうとすることを、裕子は必死に食い止めようとする。裕子は、スケッチブックというフレームに鳥を押さえ込もうとするだけでなく、さらに木々に留まる鳥をビデオカメラというフレームに押し込み、録画スイッチという鍵までかける。もはや絵を描くという趣味を超えた行動。また裕子が鳥を鉛筆で描ききった後、その絵に彩色するシーンが何度も出てくるのだが、いつ見ても彼女は、鳥の周囲をまったく隙間を空けないで別の色で囲もうとする。まるで全く自由すら与えないように。
このような立場の逆転は形を変えて何度も繰り返される。裕子が拾った女(その体つきはいかにも女らしい)を裕子はまるで男のように抱くことで、アキに対しても支配したいという本当の欲望の片鱗を覗かせるし(裕子が拾った女は、「私は誰かの代わりなんでしょ」とはっきりと言う)、アキの娘が行うタロットカードにも支配する者と支配される者の逆転が描かれる(すなわち、本来世界を支配する側であるはずのTHE WORLDが、THE DEATH、THE TOWER、THE DEVILによって囲まれる、閉じこめられるという結果を出す。)そして、これらの関係性は、現在から始まり少しずつ過去に遡っていく過程で次第にぐちゃぐちゃになっていき、崩壊し、結局あのような結果をもたらしたのである。



授業の後シネマヴェーラへ。熱がまだ下がっていなかったのだが、まあ中原昌也が見れるってことで(てゆうか日仏とかに行けばいつでも見れるんだが笑)ヴェーラの侯孝賢特集上映へ。何度見ても『百年恋歌』の予告編だけで号泣してしまい、今年の新作ベストは『キングス&クイーン』かこっちかどっちになるか楽しみだとか思いつつ『ミレニアム・マンボ』を観賞。傑作。音の映画。スー・チーと音と女の映画。もう1回見ると思う。すぐに。そんで『風櫃の少年』見てトークショー。まあ正直微妙。やっぱり中原さんは観客としている方が似合ってる。ただ『百年恋歌』をひたすら絶賛し続けていたので(間違いなく侯孝賢の最高傑作で、1966年の最初の30分は全ての映画でも至高の30分のひとつだくらい言ってた気もする。気のせいかも。)、もう期待で胸がはち切れそう。10月21日、いよいよ公開ですよ!つうわけでまあこのトークショーなら『西瓜』見に行けば良かったなって気もしてしまった。『楽日』もイメージフォーラムでレイトショーしますね。旅で見逃したのでそっちも超楽しみ。てゆうか台湾すげー。
そんなわけで『サンクチュアリ』観賞。封切り初日で8割の入り。なにやら凄いものを見てしまった気がする。まったく時間が経つのを感じなかった。スクリーンに釘付けで一時も目が離せない。この感じは昨日のカサヴェテスとか『INAZUMA稲妻』でも受けたなあと思いつつ、まあ本当に思った通りの傑作かどうかは自信が持てない。とりあえず皆さんに見に行ってもらいたいので星4つ。ただトークショーのときの黒沢さん喋りすぎ。あとユーロスペースの可愛いお姉さんと仲良くなった気がしたりした。ほんとユーロもシネマヴェーラもスタッフ可愛すぎ。これは言い続けるよ。観賞後ユーロの可愛いお姉さんに挨拶をして階段を降りようとすると、またもや超かわいらしいお姉さんに話しかけられる。まさかこんなところで逆ナン、今日の俺もてすぎ、とか思っていると、なんだ出口調査。そうか初日だと出口調査とかあるんだとか思いつつ、是非ご協力お願いしますなんてこんなかわいらしい人に言われたら断るわけもなく、一応腕時計で時間をチェックするフリをして、いいですよと答える。なんやら感想とかどこが良かったかとか色々聞かれたので、約二ヶ月近く映画の話をすることに飢えていた俺はいかにも小難しいオタクっぽいことを長々と語ってしまう。ありがとうございましたと、彼女は言い、ポストカードを一枚。それを見るとなんと『ぴあ』の出口調査。一気に後悔が襲ってくる。ぴあだったら「あーあの俳優さんがチョーかっこよかったー」とか「チョーおもしろかったですー」とか答えなきゃならなかったんじゃないか、ってゆうかあんな可愛い人にこんな痛い話してる俺って何やってんの絶対引かれたよ、とか自己問答し続ける。せっかく可愛い人の前ではこうゆう部分をなるべく消そうと努力してるのに。可愛い子とカラオケ行ったらケツメイシとかミスチルとかも歌うようにしてるのに(これを一昨日一緒にカラオケに行った後輩に行ったら「大地さん、超かっこわるいです」って言われた。でしょうね)てゆうかもう『サンクチュアリ』見に来てる次点でアウトか。確実に一番若い客は俺でした。
そんなわけで問答しながら家路に着こうとするけど、なんと寝過ごしたわけでもなく素で横浜駅で降り忘れ、戸塚まで行ってしまう。そして終電はもはや終了。いやいやいやいやいや。タクシーで帰ろうとしたら4000円とか言われ簡単に諦める。どうしようかと途方に暮れていたけど、それを理由にしてミッシェルが好きなあの子と長電話できたからとても幸せで、乗り過ごして良かったと思ったりもする。でも電話する前に買って湯を入れておいたどん兵衛はすっかりのびきってしまいくそまずかったけどね。時刻は2時くらいだったのでそこから満喫4時間パック。ひたすらYoutubeニルヴァーナを聴きながら『BECK』を読む。『BECK』ほんと面白い。グレイトフルサウンドのところは何回読んでも号泣。ようやく最新刊まで制覇。して家路に着きました。今から寝ます。ほんとにどうしようもない文章を長々と書いて申し訳ありませんでした。寝てないのでナチュラルハイってことでお許し下さい。

BECK(27) (KCデラックス)

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