またねじゃなくて、さよならだよと彼女は

勇気を出した昨日の深夜。
Beeは早速Joyに電話をして、ぼくらが行っていいということを快く了承してくれたようだ。
そして朝。こうたさんが現地の携帯の使い方がわからないという非常事態を何とか乗り越え、Beeと連絡を取り、ボーリング場へ向かう。Beeから行き先を聞いたタクシーの運転手は、僕らを高速に乗せた。一体どこにあるんだボーリング場。
タクシーで1時間くらい走り、着いた場所は都会の超巨大ショッピングモール。
なんとかドキドキを抑えつつ、ボーリング場に向かうとJoyはいない。そこにはNoiとBee、そしてJoyの代わりにBeeのお父さんお母さん姉など親戚一同が揃っている。どういうことだか全くわからず。
適当にボーリングをして、親戚の方々に挨拶して、NoiとBeeにJoyは来るのかと問い詰める。
彼女たちは頷いた。たぶん。
彼女たちの来るという言葉を信じ、みんなでラーメン食って、彼女たちの買い物に付き合う。日本もタイも変わらない。女の買い物はとにかく長い。すっかりグロッキーになった男共。タイでは珍しいブラックコーヒーをなんとかゲットし、Joyを待つ。
2時間ほど経ったか。ようやくJoyも合流。
しかしJoyである。昨日あんな積極的だった彼女とは全く別人のようにシャイになっている。しかも昨日のことは酒で全く覚えてないと言う。なんか凄いショックなんですけど。
とりあえずJoyとBeeが歯医者に行くというので付き合う。タイまで来て歯医者て!と自分でツッコむ。それよりもまともにJoyと話せない自分にやきもき。
そして一路カオサンへ向かう。せまっ苦しいタクシーに6人で乗り込み、Joyに電子辞書でいろいろ教えてもらう。あいのりの気持ちがわかるわ。…ってゆうか旅日記ってゆうか恋愛日記みたいになってねーか?
カオサンに着いたぼくらは、また昨日の怪しいバーへ。Joyとビリヤードをしたりする。ようやく少しずつまともに彼女と話せるようになってきたところで、しかしお別れの時間が来てしまう。
「またねじゃなくて、さよならだよ」
11日にはカンボジアへ行かなければならない僕らにBeeはこう言った。ぼくはJoyにホットメールのアドレスを作る約束をし、すぐにメールを打つと言った。Joyは最後にこう言う。
「You'll say Joy Joy at night」
恥ずかしがり屋の彼女の精一杯の言葉。彼女はいったん振り返って軽く手を振る。こんなんでさよならなんて寂しすぎる。

日本人宿の食堂で呆然としていた俺は動く気力もなく、そこで晩飯を食う。
ひとつの大きすぎる別れ。
これだ、旅で一番嫌いなやつ。出会いがあるんだから別れは当然、わかってる、はずなのにやっぱり死ぬほど嫌いだ。
そして僕らはもうひとつの大きな別れを経験しなくてはならない。
そう、タイにきてとにかくお世話になりっぱなしだった兄貴分のこうたさんだ。これからインド、エジプトの方向へと向かって半年くらい旅するという彼。今日、日本から彼女が会いに来るらしく、この安くてぼろい日本人宿を出るという。僕の旅の思い出はほとんど全てがこの人のおかげで生まれたものだ。きつくハグをし、また再会できることを祈る。
最後にJoyのことを相談すると、彼はこう言った。
「大ちゃん、タイで買った女でもない子にそんな気持ちになれるなんて最高じゃんか。もっと自分の気持ちに素直になってみろよ。アンコールワットはどっか行っちまったりしないぜ!」
その言葉に僕らのその後の行動は突き動かされることになる。

こうたさんと惜しみつつ別れ、ぼくらは食堂で出会ったオケという男と踊りに行くことにする。欲求不満だった体で激しく踊る。でもすぐに涙が出てくる。相方の背中を借りて少し泣き、ぼくは決意する。
まだカンボジアには行けない。