涼宮ハルヒの憂鬱と、ジャン・リュック・ゴダールの予感

世間で流行ってるから、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズを全巻借りて読んでみたのだが、まあ面白い。だが、ある点が気にかかったので書いておく。
気になった点とは涼宮ハルヒシリーズの模倣性である。これは『ハチミツとクローバー』が世間を騒がしたときにもよく言われたことであるが、ハルヒシリーズもハチクロと同様、もしくはそれ以上に、他の作品を模倣しているのである。これは文化が複製される時代、まさしくポストモダンの現代において、非常に象徴的な事例であり、そしてそれが結果として世間に流行する(すなわちいいものである、と世間に認められる)ことはまた面白い。例えばその模倣性を明らかにするには、涼宮ハルヒシリーズとある種アニメのムーブメントの先駆けとなったと思われる『新世紀エヴァンゲリオン』との類似性を見ればいい(あんまアニメとか詳しくないからよくわかんないけど先駆けですよね?とりあえずエヴァはおそらく日本で過去に最も話題となったアニメであろう。)
ハルヒシリーズとエヴァンゲリオンの設定を対比して見てみると、まず舞台設定はとりあえずちょっと特殊な高校という点で共通する。キャラ設定をみてみると、周囲を振り回す存在としてのハルヒはアスカと酷似しているし、アスカに振り回される碇シンジは、ハルヒに振り回されるキョンと見ることができる。見た目の面でも、アスカは朝比奈みくるをそのまま大きくしたままのようである。とすれば、古泉一樹はカオルくんなんてのはどうだろう。イメージ的にも怪しい雰囲気もぴったしだと思う。谷口と国木田のような存在も確かにいた。フォースチルドレンのトウジと眼鏡のクラスメイトケンスケだ。彼らはポジションだけでなく、絵ですらもなんかそっくりである。ということは、谷口は今後の展開で異世界人ということが発覚でもするのだろうか。ちなみに言わすもがなペンペンはシャミセンということで。その中でも最もそのキャラクターの類似性が明らかなのは、長門有希綾波レイであろう。長門有希のキャラ設定、すなわち紫髪の美少女、無口で、しかも人間ではない。なんというかもう、ここまでそっくりで綾波レイを想起しない方がおかしいくらい類似している。いや類似させていると言うべきであろう。ハルヒシリーズの谷川流(もちろんイラストを『戦略的に』描いたいとうのいぢも)は全部わかってやっている。綾波は確かに世間で最も早く「萌え」というイメージを確立した存在であり、それと全く同じようなキャラを模倣することで、意図的な読者の「萌え」の要素を駆り立てようとしているのである。僕は怖くて入れないので詳しくは知らないが、2chなどでは長門有希が最も人気であるという。世間も同じようなもの騙されてにバカである(というか読者も意図的に騙されているのだろう。)ここまできたらエヴァとの違いはもはやロボットが出てくるかどうかと言ってしまってもいいかもしれない。なんか怪しい敵を倒していく感じもそうだし、宇宙人とか未来人とか超能力者とかどこのアニメにもありがちな設定が、ロボットの代わりになっているのかもしれない。ということはもしや神人はもののけ姫のシシ神様を模倣しているかと思ったが、使徒か!?
エヴァンゲリオンだけを見てみても、ここまで類似しているのである。更にストーリーにまで目を向ければ、この話の設定、このセリフは、この漫画の、この小説の、この映画のこの部分からきているなんて特定できるものばかり出てくる。これでまさか何も模倣していないとは言い訳できないくらいである。もちろん僕は「模倣をすることは悪いことである」なんていう意見を言うつもりは毛頭ない。むしろ「いいもの」を「パクり」、「新しいものを生み出す」ことで「更にいいもの」を作り出せるならば、それは非常に喜ぶべきことであると考えている。ここでゴダールの例の発言を思い出す。「すべての映画は撮られてしまった、しかし新しいものを作り出さなければならない。」というあれである。ゴダールはそう考えどうしたか。そう、映画史の森をジグザグに横切り、引用とパロディを繰り返しながら、辛うじて映画を撮り続けたのだ。そしてその映画は全く過去に存在しなかった新しい映画を作り出したのである。以前存在した素晴らしいものを模倣することで、新しいものを作り出す。これがゴダールの手法であり、未来への予感である。であるとしたらハルヒシリーズもそのように言えるのではないか。確かにハルヒシリーズにはどこかで見たようなものが散らばっており、しかし、それをもとに新しいものを作り出そうとしているように僕には見えるのだ。まだはっきりと成功してると言えるかはわからないが、僕はそのように感じたのである。この物語は模倣によって書かれる。その姿勢は非常に好きであり、楽しめる。むしろ、「自主映画はオリジナリティだ。今までになかったものを作り出さなければならない」とか言ってる奴はなんか嘘くさく感じてしまうのである。そう言うこというやつは、全く映画を見てないやつが多いので、今までに存在したかどうかもわからないだろうが(もちろんこれは彼らに言わせると、他の映画を見ると、いつの間にか構成や設定が似てきてしまうから、らしい。)そういう彼らに対して僕はこう言うようにしている。「お前にゴダールよりセンスはあるのか」、と。
なんてどうしょうもないことを考えていたのだが、その間に読んだシリーズ第4巻『涼宮ハルヒの消失』があまりにも傑作だったので、一言添えておく。この第4巻はライトノベルとかそんなジャンルを飛び越えても、なかなかの傑作であり、この4巻を見るためにシリーズ1〜3巻を読んでも多分は損はない。ちなみに一言言い訳しておくが、俺はきもいオタクではないので。(ネット情報だけでは誤解されやすいからね!重ね重ね申し訳ない。)あとオタクの方々、全然アニメとか詳しくないのに、何かそれっぽいこと書いちゃってほんとすいません。いじめないでください。

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

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