garuboru2006-05-26

映画

a)ウィークエンド(ジャン=リュック・ゴダール)★★★★★
b)OUT OF PLACE(佐藤真)★★

音楽

c)FIRST IMPRESSIONS OF EARTH(THE STROKES)★★★


a)大いなる自由の映画。まさにゴダール版『不思議の国のアリス』という形容がふさわしい。平気で人が殺され、アリスそっくりのきちがいが出てきたり、神様が魔法を使ったりとやりたい放題にはとにかく笑った。ジャン・ピエール・レオが「なんてひどい映画だ。頭がおかしい奴しか出てこない」と言い、ミレーユ・ダルクが「出演するのが悪いのよ」なんて掛け合いは最高である。しかし、一方で確かにゴダールは映画の終焉を確かに感じているのである。映画がFINのマークとともに終わりを告げ、そのFINの後に「映画」と続く。そして「映画」の文字は「人生」へと変わる。「映画の終わり、そして人生の終わり」と。ゴダールの最高傑作の一つであるこの映画は、68年に起こった5月革命の前に撮られた最後の劇映画である。

b)エドワード・サイードの生涯を追ったドキュメンタリー。しかしサイードに関する映画と言うよりは、サイードの唱えた「ポスト・コロニアル」的な人々に関してのドキュメンタリーという感じに仕上がっている。アメリカ人であることもパレスチナ人であることもやめ、その「境界線」にたつことを選んだと映画で語られるように、サイード自身が彼の言葉を借りれば「絡まりあう領土、重なりあう歴史」という複合的なアイデンティティをもった現代的人間であることをあらためて再確認。本だけでは知ることが出来ない、サイード自身についても知ることができる。最後のバレンボイムのピアノ演奏には思わず涙がこぼれてしまった。

バレンボイム/サイード 音楽と社会

バレンボイム/サイード 音楽と社会



今日は『ウィークエンド』を見るために、4月に新しくできた北千住の東京芸術センターに行ったのだが、なんと客席が約300席ほどあるにも関わらず、客は俺含めたったの2人。ほぼゴダールを独り占めできる映画環境はぶっ飛んで甘美な体験であった。しかももう1人のおじいちゃんがシネフィルで上映が終わった後、優しそうなスタッフのおばちゃんと談笑。東京芸術センターいいなぁと思い、誰にも教えないで秘密の場所にしようと考える。
が、家に帰って樋口泰人のサイト「boid」内の日記をチェックし、運営者側にとって客が来ないことがどれほど辛い状況なのかを知る。彼は日本の映画の状況を嘆き、自分の身を犠牲にし、ただ独り闘っているのだと知ると、俺もこんな考えしてちゃいけないと考え直す。仮にも映画配給やプロデューサーを目指す身なんだ、俺がそんなことでどうする、と。そう考えると、名画座(早稲田にあったビデオレンタル屋)が潰れたことや家の周りの高校時代に足繁く通ったミニシアターが全部潰れてしまったことが脳裏に蘇ってきて凄く悲しくなる。ゴダールの映画を一本流すのにどれほどのお金がかかっているか。入場料1000円で観客2人じゃ大赤字は当然だ。このままではまた…。名画座が潰れたときに感じた思いを忘れてないあなたたちならば、この気持ちはよくわかると思います。
こんなに素晴らしい企画を行ってくれる数少ない映画館をもうあんなことにはさせたくない。その一心でこれから本格的に宣伝していきますので、皆さん東京芸術センターに足を運んであげて下さい。

東京芸術センターがこれまで流した映画は『エルミタージュ幻想』(アレクサンドル・ソクーロフ)、『影武者』(黒澤明)、『クレーヴの奥方』(マノエル・デ・オリヴェイラ)、『ヴァンドーム広場』(ニコール・ガルシア)、そしてゴダールの『ウィークエンド』。これからもテオ・アンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』などが上映される。このような映画を見れる場所は他にはそう無いと思います。俺らが守っていきましょう。


(参考)
東京芸術センターHP http://homepage2.nifty.com/ac-tokyo/
boid.net HP http://boid.pobox.ne.jp/
boidは今、6月公開のアルノー・デプレシャンの新作『キングス&クイーン』を宣伝中です。お金も人も足りない中(boidは事実上、樋口さんひとりでやっている)頑張っていますが、かなり厳しい闘いになりそうです。また6月のお薦めイベントはネットにあげますが、『キングス&クイーン』、見に行って下さい。素晴らしい映画であることは保証します。